第1章 ◆*・1・*◆
智「出かけんの?」
「うん」
智「が行くんなら俺も行く」
「……」
出逢った頃の智と比べると
人が変わった
喋ることも行動も・・・
見た目さえ
それは、目を塞ぎたくなるけど全部自分のせいだって思うから
「仕事だよ」
智「知ってる」
「……」
智「飲んで待ってっから」
何もないこの部屋で智だけがいる
吐いた息が
白く
その息だけが この場所で温もりを持ってるみたいだった
「待ってて、今日はすぐ帰るから」
智の顔を見なくても
不穏な空気が2人を包んだのがわかった
智「……アイツんとこ行くの……」
「行かないよ……」
うつろに揺らぐ瞳に少し笑ってみせた
智の手が
少しだけ動いたのを見たけど気づかないふりをした
あいつ……
智がそう言葉にするのは私の
かつては生活の全てだった人
何も知らない私に全てを教えてくれた男
ねっとりと光るグロスを塗り終えて立ち上がった
「行って来るね?」
何も言わず私を見上げた智を残して部屋を出た
風が冷たく吹きつけて
私を身震いさせる
智のいない外界に出ただけで
心に穴が空いたように薄っぺらな私になる
それに気づかないふりをしなきゃ
こんな日常は
もう無理だ
あの日
智が私の前になんて現れなきゃ良かった
智の
あの瞳を見た瞬間
こうなる事がわかってた気がする
ごめんね
智