第2章 ノース・シー(真琴)
「俺はあの時、『すきだよ、公子ねえ』って言ったんだよね」
「うん」
「その後公子ねえがなんて俺に言ったか教えてあげる。『真琴はまだ子供だから、大きくなったら考えてあげる』…これが正解。覚えてた?」
「…言われて思い出した…」
思い出したくなかった。私は幼い真琴の好意を無残に捨て去り、その上忘れていたのだ。
自己嫌悪と真琴への申し訳なさで顔を上げられない。
「ごめんなさい真琴…私、ひどいこと…」
「…顔上げて、公子ねえ」
「…」
ざくざくと砂の上を歩く音が聞こえる。
「じゃあそのままでいいよ」
そう言う声と同時に、ぎゅ、と私の体が誰かに抱きすくめられた。
「え…ちょ、真琴…?」
「謝らないでほしいんだ、俺怒ってないから」
耳のすぐ近くで穏やかでゆっくりとした声が聞こえる。
じっとしていると、彼の心臓の拍動も少しだけ分かる。
私を抱きしめたまま真琴は続ける。
「…公子」
私の名前を大事そうに、少し苦しそうに呼ぶので、思わず私は顔を上げた。目の前に真琴の顔がアップで現れる。真琴は耳まで真っ赤にしていた。
「…えっと、はい」
「…うあー緊張する、すごい心臓どきどきいって…ちょ、公子ねえこっち見ないで!」
真琴の胸元に顔をうずめられてしまった。心臓の音がせわしなく聞こえる。
「あの時の続き、言わせて?」
「…うん」
どくん。
「あのころとは違う、もう子供じゃない」
どくん。
「大きくなったんだ。一人前の男なんだ」
どくん。
彼が深く息を吸うのが分かった。
「…すきだよ、公子」
end**