第8章 ライト・アリス・ブルー(愛一郎)
講堂の中には雑踏や話し声がひしめき合っていた。
私はその様子をぼんやりと眺めていたが、自分にそんな余裕がないのも分かっている。休憩もそこそこに、私は鮫柄のジャージを着た小柄な青年に声をかける。
「ねえ君、今手空いてる?」
「ぼ、僕ですか?」
「そう、君。もし空いてたらちょっと手伝って」
「はいっ!」
私はとある女子高に通っており、水泳部の部長をさせてもらっている。
近くにある男子高・鮫柄学園の水泳部と時々地域への奉仕活動をしているのだけれど、今回はとある町内の公民館で劇を披露することになった。
「不思議の国のアリスですよね、演目」
「そう。けどキャスティングに困ってるんだよね…」
「そうなんですか…」
男性にしては長めの髪に線の細い体。こういう男の子なら、女装して主演を張っても様になるかもなあ。なんてことを少し考えた。
脚本はそちらに一任すると御子柴くんが言ってくれたから既に脚本は完成している。
けどキャスティングはやっぱりきちんと両校揃って決めたい。
「えっと、君さ」
「はい、何ですか?」
「御子柴くん呼んできてくれるかな」
「分かりました!」
「あ、待った!」
去りかけた青年を引き留めて続ける。
「名前なんて言うの?」
「に、似鳥愛一郎です!」
青年…似鳥くんは、にこっと笑ってから再び背中を向けた。
「確かに揃って決めたいよな。よし、鮫柄ー集合ー!」
話をすると御子柴くんはすぐ部員を集めてくれた。私も部員に集合してもらう。
「えーそんなわけで、今からキャスティングを行う!演目は不思議の国のアリス!はい、アリスやりたい奴は挙手!」
「御子柴くん、それなんだけど」
「なんだ?公野」
立ち上がって声高に宣言する。
「鮫柄の似鳥くんを推薦します!」
「だそうだ、似鳥ーどうだ」
「ぼ、僕なんかにそんな大役…!務まるのでしょうか…」
「できる!私が教えるから!」
…ちょっと待って、今私なんて言った?
みんな、そんなにこっち見ないで。
「本当ですか…?」
似鳥くんもそんなきらきらした目で見ないで。
「あーえっと、私っ…」
「よろしくお願いします、公野先輩!」
…撤回するタイミング、逃してしまった。
to be continued…