第7章 特別編*バレンタインデーキッス
scene7*パウダー・ピンク(真琴)
「…よしっ。キミコーそっちはどう?」
振り向いた先から公子の悲鳴が聞こえた。
「ちょ、え!?」
駆けつけると、小麦粉まみれの公子がへたりこんでいた。
「キミコ!?」
「ごめん真琴…」
「大丈夫、もう一回落ち着いてやってみよう?」
俺は幼馴染の公子とバレンタインのお菓子を作っていた。なんでも、同じく幼馴染のハルが鯖以外のものを食べるところを見たいらしい。そこで不器用な公子が俺に救いを求めてきたのだけど。
冷蔵庫を開けると、奥の方にいるのは小振りのチョコケーキ。逆チョコとして公子に渡そうと思って昨日の夜作ったはいいけど…
「渡せないよなあ…」
「真琴ー?何か言ったー?」
「あ、や!なんでもない!」
「ふいーやっと焼く手前って感じかな?」
「ここからはヘラで混ぜてね、こうやって切るみたいに」
と言いながら少しだけやって見せる。隣で公子がかがんで目をきらきらさせているのが気になった。
「どうしたの?」
「真琴が料理するの見てるのすき」
「そう?」
「なんか、魔法みたい」
そんなことを恥ずかしげもなく言ってしまうところが聞いてて恥ずかしくて、けどこの上なくいとおしい。
「お、俺はいいから!はい、キミコやってごらん?」
オーブンの戸を閉めた。あとは焼き上がりを待つだけだ。
「真琴ー紅茶淹れるよ?」
「あーごめんね、ありがとう」
一口飲んで、ふたりで息をつく。
「そういえばさー真琴」
「ん?」
「冷蔵庫に入ってたケーキどうしたの?」
「!?」
派手にむせてしまった。一呼吸してから俺は口を開く。
「…キミコに作った」
「え、うそ!」
「…食べてくれる?」
「食べるっ!」
満点の笑顔で答え、キッチンへ向かう公子。
きっと俺のため息は聞こえていない、はず。
「今日はありがとうね」
「いいよ…これからハルのところ?」
「うん!」
またもや満点の笑顔。胸がずきずきする。
「じゃあ」
「…公子」
振り返ろうとする公子の腕をつかみ、無意識に強く抱きしめる。
「…行かないで、俺といて」
紙袋の床に落ちる音がした。
end**