第7章 特別編*バレンタインデーキッス
scene5*ミルキー・ピンク(愛一郎)
彼女はホットミルクが好きだ。だから家ではもちろん、外のお店でもメニューにあるときはそれを飲んでいる。
今日は彼女の家で並んで座り映画のDVDを観ているのだけど、彼女はいつものように小さな両手で子ぶたのマグカップを持ちながら画面に見入っていた。
「おもしろかったねー!」と、公子ちゃんは目をらんらんと輝かせながら言う。かわいい。
「そうだね」
「…ふあ」
「どうしたの?眠たい?」
「んー、ねむたくない…」
「体勢がすでに眠りに入ってるよ」
目を軽くこする公子ちゃんからカップを預かり机に置き、ブランケットをかけた。
「せっかく愛くんと会えてるのに眠っちゃったらもったいない…」
「今日は1日オフだし眠っていいよ?僕はここにいるから大丈夫」
「ん、そうする…おやすみ愛くん」
「はい、おやすみ公子ちゃん」
「…ふう」
ぐっすり眠る公子ちゃんの隣で僕は本を読んでいたのだけれど、読み終わってしまい暇を持て余していた。
「眠ってるし…大丈夫だよね?」
彼女の寝顔を見つめる。長いまつげの影が頬に落ちる。
見とれてしまった僕は、無意識に唇を重ねていた。
時間がいつもよりずっと長く感じた。
「ん…ん?」
体を起こす。どうやら公子ちゃんの横でそのまま眠ってしまったようだ。
「あれ?」
公子ちゃんの姿がない。子ぶたのマグカップもない。
「公子ちゃ…わっ!」
「だーれだ?」
「公子ちゃん…」
唐突に彼女から目隠しをされた。後ろに隠れていたんだろうか。
「愛くん、私が寝てる間に何かしたよね?」
「えええ!!!な、な、な、何も!?」
「わかりやすいなあ」
そう言いけらけらと笑う彼女。ばれてたのか。
なんだかちょっと悔しい。
「そうだ愛くん、はい」
「え?何?」
「ハッピーバレンタイン!特別に私があーんしてあげよう!はいっあーん」
うっかり口を開けそうになってしまった。このまま彼女の好きにはさせない。
僕だって一人前の男なんだ。
「その前に」
「え?」
「…目、つむって?」
はじめてちゃんとしたキスは、ミルクとはちみつの味がした。
end**