第7章 特別編*バレンタインデーキッス
scene3*ストロベリー・アイス(遙)
ある休みの日、いつものように風呂で水につかっていたらインターホンが鳴った。
真琴か?いやでも今日は何も約束はしていないはず。
仕方ない、出るか。
「はい」
「こ、こんにちは七瀬くん…」
そこには同じクラスの公野が立っていた。
「なんで家を知ってるんだ」
「橘くんに聞いたの、これ…」
そう言いながら彼女が差し出したのは、俺の数Ⅱの教科書だった。
「失くしてたやつだ…」
「数学移動教室でしょ?その時に机の中に入れっぱなしだったの見つけたから持ってきたの」
「はあ」
それはわざわざ、という感じだ。
受け取ろうとしたが手を止める。わざわざ休みの日に届けてもらったのに何も構わないのはよくないんじゃないか。
「…あがっていいから」
「へっ?」
とりあえず炬燵を入れる。初めはきょろきょろしていた公野はすっかり家のことを気に入ったようだ。
「いいねーおこた、家ないから羨ましい…」
「水がない…」
「水かあ、七瀬くんウォーターベッドとか買ってみたらいいんじゃないのかな」
「!?どうやって使うんだ?」
「お布団のスプリングのところが水なんだって。気持ちいいらしいよ」
「今度真琴と見に行ってみるか…」
ふいに公野がくすくすと笑いだした。
「七瀬くんって本当に橘くんのこと好きなんだね」
「!?そ、そんなんじゃないっ」
「ふふ」
…なんか、やりづらい。
「あ、忘れてた」
ぱちんと手を合わせた後、公野は炬燵の上にアイスを出した。苺味。
「ちょっと寒いけどおこたに入ってるし平気だよね。七瀬くん食べられる?」
「ああ」
「よかった!2つあるから半分こしよっか」
牛皮に包まれてもちもちとしている。甘いものはあまり食べないけど、炬燵にアイスとよく言われる訳が少しわかった気がする。
「これ実はバレンタインにって思って買ったんだ」
「そういえば今日だったな」
「これからもよろしくねって意味だから、深く考えないでね」
にっこりわらって幸せそうに牛皮をのばしてアイスを頬張る公野を見ていると、なんだか不思議な気持ちになる。
「公野」
「ん?」
「…これからも、たまに家に来てもいいから」
この気持ちは、何て言うものなんだろう。
end**