第7章 特別編*バレンタインデーキッス
scene2*ハッピー・バースディ(凛)
まだ雪の残る道をざくざく歩く。
立春はとうに過ぎたのに少しも日が長くなった気がしない。
今日は江に呼び出され、ハルや真琴、渚、怜、そして江の5人にサプライズで誕生日を祝われた。バレンタインと一緒くたにされた感じは否めないが、嬉しかった。あいつらとまたこんな風に笑い合えるようになれたのが本当に嬉しい。
「凛先輩、おかえりなさい!」
寮に戻るとルームメイトの似鳥がいた。相変わらず整理整頓がなってない。
「ただいま。愛、ぼちぼち部屋片付けろよ」
「はいっ!そういえばオーストラリアから荷物が届いていましたよ、机に置いてます」
荷物?忘れ物か?
「わかった、サンキューな」
ラウンジでひとりになり、送り主を見る前に包みを開けた。
入っていたのは、チョコレートと一通の手紙。
「公子さんだ」
直感で、そう思った。
封筒をゆっくり開いた。薄い紺色をした無地の便箋がいかにも公子さんらしい。
『突然小包が届いて、さぞ驚いていることと思います。元気にお過ごしでしょうか?』
ああ、すげえびっくりしたよ。
『あの日は弱いところを見せてしまってごめんね、聞いてくれてありがとう』
むしろもっと見せてください、あなたのことを支えられるようになりたい。…なんて言えるはずもない。
ふと封筒に重さを感じたので逆さにしてみると、知らない鍵が出てきた。慌てて続きを読む。
『うちの合鍵を同封してます。別に来なくてもいいので受け取って、私の愛の形です』
相変わらずやることがくっさいな…無意識に笑いが零れる。
『生きるのが死ぬほど大変と言いましたが、凛のことを時々考えながらなんとか生きています。救ってくれて、ありがとうね。では』
何言ってるんだこの人は、救ってもらったのは俺なのに。
手紙はここで終わっている。しかし、便箋を置いたら裏に一言書いてあった。
『P.S.それから最後にもうひとつ。
生まれてきてくれてありがとう。ハッピーバレンタイン、ハッピーバースデー』
便箋にぱたぱたと雫が落ちた。視界と同じように胸の中が滲んでいく。
ほろ苦いチョコを齧りながら窓の外を見る。寒々しく木々が揺れる。
けど、それでも…
「…甘ぇ」
もうすぐ、春が来る。
end**