第7章 特別編*バレンタインデーキッス
scene1*フィエスタ・ローズ(渚)
賑わう校内 ちらつく視線をくぐり抜け
長い廊下を走る走る
はやくはやく、あの子の元へ。
「キミコちゃん!」
「葉月。どしたの?」
「なんだと思う?」
「んー…居残りあるとか?」
君はいつもみたいに、良くも悪くも僕の期待をきれいに裏切る。
「先帰っておく?待っとく?」
「いやーあのそうじゃなくて…」
「?」
時々、わざとなのかなと思ったりする。
キミコちゃん、今日が何の日か知らないのかな?周りの人、みんなそれっぽいもの持ってるじゃないの。
「キミコちゃん、今日ってさ…」
「今日?あー今日か…」
「お!思い出した?」
「駅前のクレープ屋さん、限定のやつ出るって言ってたよね」
真顔でそんなことを言うあたり、キミコらしいというか、クールな顔して天然なのが一周まわって清々しいというか何と言うか。
「もう!違うもん!」
「えー…じゃあ何」
「待ってました!はいっ」
背中の後ろに隠していたものを渡す。
「これ何?」
「ブラックペッパーとチーズのクッキー!バレンタインだけど、逆チョコって流行ってるみたいだしいいよね!」
「…作ったの?」
「うん!怜ちゃんに手伝ってもらったんだけど、お菓子作るのって結構大変なんだねー」
「あー、だからか」
ふいに距離を少しつめられ、僕の首筋にふわりと髪が当たる。
「キミコちゃん…?な、な、なにっ」
「ん?あまじょっぱい匂いがしてたから、なるほどなって」
「…もうっ!キミコちゃん、外でそういうのはほんとだめ…」
力が抜けてぺたりとしゃがみこんだ僕の頭に何かがこつりと当たった。
「ん?何これ…んんんん!」
「あげる」
「キミコちゃん、これってもしかして…」
「バレンタインデーでしょ?さすがに知ってる。口に合うかわからないけど、良かったら」
やられた。こういうサプライズを意図しないでしてしまう子だった、そういえば。
「…はは、やられた」
「?どうかしたの?葉月」
「渚」
「え?」
「今日は渚って呼んでくれなきゃやだ」
「えー…な、渚」
顔を真っ赤にしながらそう言ってくれる君のことが、たまらなくいとおしくて。
「ハッピーバレンタイン!」
来年も、そのまた来年も
一緒にいようね。
end**