第4章 ナポリ(渚)
「おいっしー!ふわふわだ!」
葉月はおいしそうにオムライスを頬張る。
私はと言えば、今日も今日とてナポリタン。おいしい。
「そう、よかったね」
「ほらほらキミコちゃん、一口食べてみて!」
そう言いながら私の口元へオムライスの乗ったスプーンを持ってくる。
「!いい、自分で食べられるっ」
「だーめっ!はい、あーん」
「えー…」
諦めて私は口を開く。嬉しそうに微笑む葉月。なんか、ちょっと悔しい。
「ねえ、なんか今日の葉月嫌なんだけど」
昼食を食べ終え、そのまま席でゆっくりしていたとき、私は意を決して切り出した。
「変?どこが?」
「やたらかわいい言うし、あーんするし、恥ずかしいこと言うし…そういうことは好きな人にするときのためにとっておかなきゃだめだ」
きょとんとしていたが、「えー…」と言いながら葉月はへなへなと机に伏した。
「うそ、僕てっきり気づいてるんだと…」
「?」
「っ…この際だから言うけどさっ!」
葉月は勢いよく起き上がり、私をきっと見つめる。
「僕は好きって思った人や物にしか好きって言わないし、かわいいと思った人にしかかわいいって言わないの!」
「はあ」
そんな気の抜けた返事をしたいんじゃない。なのに、恥ずかしさと緊張で体が言うことを聞かない。
お願いだから、私の声、出て。
「好きもかわいいもキミコちゃんだから言うんだ、キミコちゃんはかわいい」
出て。
「キミコちゃんのことが好きなんだ」
出て。
「僕と、つきあってほしい」
大きく息を吸う。
「私は…」
季節は移ろい、すっかり冬になった。
「えー、キミコちゃんまたナポリタン?」
「いいでしょ、好きなんだから」
手を繋いでいる相手がくすりと笑うのが聞こえた。
end**