第2章 桜降る季節
「待って…」
彼の声が耳に残る。
ごめんなさい。
どのくらい走っただろう。
久しぶりに思いっきり走ったため、息が苦しい。
まわりには人も多いしこれだったら見つからない。
大丈夫。
「みーつけた」
耳元に聞き覚えのある声。
全身に寒気が走る。
「もう逃げちゃだめだよ」
そう言って、私の腕を掴む。
「こっち来て」
優しい声だけど、掴まれた腕は痛い。
私は、引っ張られるがままついていく。
細い脇道に入って、歩くのを止めた。
彼はクルリと回って私の顔を見つめたと思うと、壁に押し当て、
「どうしてくれんの?」と、怒ってるような口調で言う。
鋭い目つきで私を見つめる。
その怖さから涙が溢れて頬をつたう。