第1章 出会い
VIPルームについて、クロコダイルは椅子を指差した。
「座れ。」
腹の底から絞り出すような低くて威圧的な声だったが、青年はにこにこと上機嫌に椅子に腰かける。気を使う気などさらさらないらしく、目の前のテーブルに堂々と足を乗せた。クロコダイルは青年の向かいの椅子に座り、足を組んだ。葉巻を指で持ち、紫煙を吐いてから青年を睨みつけて口を開いた。
「単刀直入に聞こう。てめぇは何者だ?」
「質問を質問で返すようで悪いけど…
おれ、だーれだ?」
青年は肩をすくめてからクロコダイルの眼を真っ直ぐ見つめた。口調は冗談めいたものだが、青年の瞳には試すような色が浮かんでいる。クロコダイルは眉をしかめて青年の容姿を確認した。
整った目鼻立ち。青く澄んだ海の色の瞳。肩に届かない程度の長さの銀髪。すらりと伸びた四肢。体型は太すぎず細すぎず、所謂俳優体型というやつだろう。しかし筋肉はつくべき所についている。
青年の見た目は24、5歳といったところだろうか。堅気ではないな、とクロコダイルは判断した。先程浴びた覇王色の覇気は堅気が使いこなせるようなものではない。大体、自分に臆面もなく話しかけてくる時点でただ者ではないのだ。
そして突然、クロコダイルの脳内にある手配書が浮かんだ。
いや、そんな、まさか。クロコダイルは自分の考えを払拭しようとした。しかし、可能性は捨てきれない。彼にしては珍しく、恐る恐ると言った感じで青年に問いかけた。
「緋色の、シャル……?」
「ピンポンピンポーン!!大正解、さすがはクロコダイルだ!」
青年…"緋色のシャル"は嬉しそうに拍手して、ケラケラと笑った。クロコダイルは再び眉をしかめた。
「あの手配書は、10年以上前のものの筈だ。なぜ、全く変わっていない?大体、お前はなぜ、」
クロコダイルが詰め寄ると、シャルはククッと喉の奥で引くように笑った。
「落ち着けよ、クロコダイル。とりあえず…おれは、お前より年上だ。一個目の質問の答えはこれでいいか?」
「…ああ!?」
「だーかーらー。お前今確か40歳だったよな?おれ、それより年上。」
クロコダイルの眼が再び見開かれる。自分の年齢を知られていたことも驚きだが、シャルが自分より年上だとは思えない。クロコダイルは眉間を指で押さえて低く唸った。