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掃除婦の恋煩い

第1章 たかがバイト、されどバイト


「…まーちゃんと想子さんの娘だったらな…」

たまに出てくる弱い自分が、ふと言葉を発する。
小さい呟きだったが、佐渡は聞き逃さない。

「ん?いつでも歓迎だけど。」

ふんわりと微笑みながら腕を広げてみせる。
首を傾げる仕草は、とても50代には見えないくらい可愛らしい。

「…言うと思ったけどね。まーちゃん優しいし。」

けど、と続ける。

「今の忘れて。弱音吐いた。それから私にあんまり優しくしないで、今はまだそんな時期じゃないから。」

扉を前に、佐渡に背を向けて言い放つ。

「…ごめん。」

「何も謝ることなんて無いだろう?それだって元は私が言い出したことだ。忘れられてなくて嬉しいよ。」

にっこりと笑う佐渡の雰囲気を、背中で感じながらも振り返らずに立ちすくむ。

まーちゃんの奥さんの想子さんは子供を授かりにくい体で、辛い思いをしながら不妊治療を受けていたが、子供を授かることはなかった 。
その間の苦悩、葛藤を知っていたのに、軽率な発言をしてしまった自分に落ち込み、幻滅する。

「…私にあんまり優しくしないで。そんな資格も無いんだし。」

この気持ちを解かして欲しくない。
今の私にはこの気持ちだけが原動力。

「優しくされるのに、時期も資格もないだろう?私が甘やかしたいんだからそれは私の勝手。」

小さな背中に、佐渡はそっと手を伸ばす。
何もかも背負い過ぎて、固く鎖されてしまった心に、少しでも自分の気持ちが伝わるように…。
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