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掃除婦の恋煩い

第1章 たかがバイト、されどバイト


デスクから離れ、頭を下げたままのはるの肩を押して向かい合う。

「出来たら今回の話は受けて欲しかったけどね。」

「ごめんなさい。」

「諦めたわけじゃないよ。」

ピリピリした雰囲気から、いつもの穏やかな様子に戻りホッとする。

「辛くなったら、ここの正社員の話はいつでもOKだよ。ただはるの気持ちも知り過ぎてる立場としては、脅してまで強要は出来ないし、したくない。今まで通り彼女には黙っておく。」

でも。
と一言が付け加えられる。

「睡眠時間の短さは早めになんとかしなさい。若いからって無茶すると、後でくるからね。」

「分かった。」

「それと…。」

そう言うと佐渡ははるの顔を隠す、分厚い眼鏡を指でつま弾く。

「イタッ」

「今まで通り、仕事の時はこの眼鏡を外さないこと。どこのバイトに行ってもだよ。それは守れてる?」

「守ってるよ。わざわざ見せないって、こんなの。」

ずれた眼鏡を直しながら不貞腐れた様に言い捨てる。
その様子に佐渡はホッとしながらも、複雑な様子でこちらを見ている。

「自覚があるんだか無いんだか…。」

「自覚って何?私の目が変だってこと?」

「そんな事今まで一度だって思ったことないよ。さぁそろそろ出掛けるんだろ?」

「自分が呼び出したくせに。」

眉間にシワを寄せて睨んでみるが、佐渡はニコニコするだけで動じない。

「想子も遊びに来いって言ってたよ。」

「分かった。よろしく言っといて。」

想子とは佐渡の妻で、年こそ離れているがはるの姉的存在で、私の経歴を知り得るもう一人の人物でもある。
穏やかな性格で、二人が喧嘩しているのを見たことがない。一緒にいると自然と笑顔になれる。
こんな場所が一つでも残ってて良かった…。
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