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掃除婦の恋煩い

第1章 たかがバイト、されどバイト


「………」

「そろそろ自分を大事にしなさい。生きていくのに必要なお金はここで十分稼げるし、経験が必要ならその都度やって行けば良い。」

「それじゃ足りない…」

「足りないって?!じゃあ今一日で何時間寝てる!?」

「…3時間。」

「3時間って!?健康に生きていくのに必要な睡眠は最低6時間だよ!その半分しか寝てないなんて自分を大事にしないにも程がある!!」

今まで穏やかに話していたのが一変して、語気が強くなった佐渡に一瞬動揺するが、それだけでは曲げられない。
後ろに引けた身体を向き直して対峙する。

「…でも、足りないの。私は今までずっと自分の為に生きてきてなかった。全部あの人の為に生きてたの。」

思い出すと泣きそうになる。
あの絶望も虚無感ももう2度と味わいたくはない。

「今はそれを取り戻す時期。それから自分を育てる時期なの。いくら外身が整っても…私はきっと幸せになれない」

事情を知っている佐渡は、その様子に言葉をつまらせる。

はるの気持ちや、環境を知っているからこそ今まで助けになりたいと傍に置いていたのだ。
今更手を反す気は無い。
ただ、上手く隠していてもたまに見える疲れに胸が痛む。

出来ることなら、これ以上辛い思いをして欲しくない。
それだけ。

「…分かってるよ。まーちゃんの気持ちは。だから何もかも捨てるつもりだったけど、ここにはいられるの。」

一言一言、佐渡の目をしっかり見つめながら話す。

「でも、やっぱり今は吸収したい。色んなものに触れて、自分を創りたい。だからごめんなさい。」

深く深く頭を下げる。
自分を大事にしてくれる唯一の人には、どうしても正直にありたい。理解して欲しい。

「…それは反則だよ。何も追い詰めたいわけじゃない。」
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