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掃除婦の恋煩い

第1章 たかがバイト、されどバイト


「吉田さんには負けますって」

「褒めても何も出ないよ~」

「損した~」

はると吉田さんはにこやかに会話をしながら、次の現場に向かうためにエレベーターに向かう。

「~!……?」

エレベーターの前に立つと、横に併設されてる階段の方から、上の階の騒がしさが聞こえてくる。

「吉田さん…いつも上のフロア引き受けてくれてるけど、大変じゃないですか?」

「そ、そんなことないよ~」

「だって毎度賑やかですし、人も沢山いるなら掃除も一人じゃ大変じゃないですか」

「…ま、清掃会社勤務5年もすりゃなんとかなるのよ」

「ん~…!それじゃ今度ここが終わったら手伝いに行きますよ…」

「それは困る!!」

血相を変えて拒否する吉田さんにたじろぎながら、頭にはてなマークを浮かべて見つめるしか出来ない。

「い、いやね、全然大丈夫だし。そ、それにアンタは他にも色んなバイト掛け持ちしてるんだから、楽できるとこは楽すれば良いと思うし、さ!」

「…そうですか?」

「そうそう。ほらエレベーター来たよ。」

半ば押し込まれるようにエレベーターに乗り、そこで話も途切れてしまった。

はるはこの会社には週に3回来るが、大体が吉田さんと一緒で、そして担当するフロアもいつも同じ。
私は空きフロア。
吉田さんがその上の賑やかなフロア。

なんでわざわざ大変な場所を一人で担当することにこだわるんだろう。
私、知ってるよ。
他の現場では大変な場所は新人に押し付けてること。

会社では、入って半年も立たない私が所長に贔屓されてるって陰口言ってるのも。

でも私はそんなん平気。
何言われたって気になんかしてられない。

金を稼ぐためにバイトしてるんだから。
生きてく為に働いてるんだから。

「吉田さ~ん、次はどこでしたっけ~?」

だから私は気にしないでいられる。

「いい加減覚えろって~」

自分を嫌いな人にも平気で笑顔を向けられる。

「さぁ行きますか~」

生きるために生きてるんだから。
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