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掃除婦の恋煩い

第1章 たかがバイト、されどバイト


「ここ…私要る?」

誰もいないフロア。
たまに上のフロアの人が降りて使うのか、ペーパーが乱れている箇所もあるが汚れなんてほとんどないトイレ。
雨が降らないとなかなか汚れない窓。
埃もたまらない床…

上のフロアはテナントが入ってるから賑やかだし、大変そうだけど、時給は同じ。

「…楽して金儲け万歳だけどね!」

なんだか少し感じる申し訳なさを振り切るように、自嘲的に声を張る。
それががらんどうな空間に響いてより一層虚しい。

「…わたしまぁつぅわぁいつぅまでもまぁつぅわぁ」

「…呼んだ?」

振り返ると怪訝な顔をした女性が腕を組みながら立っている。傍らには掃除用具を運ぶキャリーがあって、同じ制服を着ているが、年齢ははるより少し上のようだ。

「あ、吉田さん。お疲れ様です。」

「お疲れ様…は良いんだけど、アンタの珍妙な歌がエレベーターの前まで聞こえてたよ」

吉田さんは苦笑いしながら肩を小突くと、少し太り気味の体でクルッと辺りを見回し溜息をついた。

「相変わらず仕事早いね~!私はこのバイト始めて5年経ったけど、こんなにこなせないわ~」

「いえいえ、空っぽのフロアですから(笑)」

「にしても、だよ。器用ってか手際が良いってか」


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