第2章 レッツゴーKY
「トイレトイレ~…あれ?」
振り返ると、こちらを見て首を傾げている男性が1人。
慌てていたのか、ベルトを外しながら悩んでる風なその様子が少し可笑しい。
「…あれ?ここ男子トイレだよね?」
「…あの、外に看板立ててありますけど。」
少しの間を空けて声を掛けられて、はるは小さく溜息をつきながら答える。
あんなに真ん前に置いてある看板に気付かなかったのか、それとも気付かないほど焦っていたのか。
何にしてもせっかく集中し始めた仕事が中断した事には変わりない。
イライラしつつも、ここは爽やかに営業スマイルで流してしまおうと声を発する。
「あの、」
「やっだ、俺またやっちゃった?」
『下のフロアのトイレを御利用下さい』と話す前に、目の前の男性はキャーキャー言いながら笑い出した。
(意味不明。)
ケタケタ笑う様子を見つめるはるからは営業スマイルの仮面はこそげ落ちている。
ただ目の前で笑う様子を冷静に観察していた。
「ごめんね~、ビックリしたよね」
(ビックリしたとかどうでも良いから早く出てってくれないかな)
悪意は無さそうだが、こうしてる時間が勿体無い。
今日はただでさえイレギュラーで、頭も使いながら仕事しなければならないのに。
イライラを隠さずにいるのに、男性は気にもせず話し掛けるのを止めない。
「あれ?お姉さんいつもの人じゃない?」
「あ、はい。初めて伺わせて頂きました金泉と言います。」
ニコニコしながら間をつめてくるので、一歩下がりながら返事をする。
(なんなの、この人)
髪は短めで、毛先は青い。
色白でヒョロっとしてそうだけど二の腕は筋肉質で、こちらに伸びてくる手に警戒する。佐渡に散々言われていた言葉が頭に浮かぶ。絶えない笑顔が逆に怖い。