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掃除婦の恋煩い

第2章 レッツゴーKY


いよいよ手が届く、と言う所で止まった手。
それはおへその手前位。

「???」

意味が分からなくて手と顔を見比べていると、笑顔を少し困り顔にしてこちらを見ている男性と目が合う。

「握手しよう?これからヨロシクね」

私がいつまでも手を出さずにいると少しだけ手を前に出して、催促してきた。
言葉こそ穏やかだが、有無を言わさない雰囲気に手を出しかけた所で、ふと我に還る。

「…あの」

「なーに?」

「私、トイレ掃除の途中なんで、手…汚いですよ」

使い捨ての手袋をした両手に、左手に掴んだ布巾を見せれば、手を引っ込めると思ったのに…

「そんなの…」

「えっ」

手首の辺りからビニール手袋を摘んで外された。
しかも両手とも。

「はい握手~」

剥き出しになった素手を大きくて暖かい掌が包む。
でもそんな中考えるのは、決してタダではない使い捨ての手袋のことと、床に落ちてしまった壁磨き用の布巾のこと。

普通ならトキメくシチュエーション?なのだろうが、はるには時間を浪費している煩わしさばかりが感じられて、目の前の男性とは逆にブスっとした表情になってしまうが隠しもしない。

「ねぇ、俺見ても何も思わない?」

手を握られたままでそんな事を言われても、とりあえず早く開放して欲しい気持ちが先走ってイライラしか感じない。
普通なら急に手を握られて、こんな風に顔を近付けられたらドキドキしたりするものなのかもしれないが。

「いえ…早く離してくれないかな、としか思いませんが」

丁寧に答えているが顔は『早く離せ、女たらし』とでも言いたそうな表情で。チグハグなその様子に男性は苦笑している。

「ごめんね、ありがとう」

握っていた手をそっと離すと、男性は足元に落ちてしまったビニール手袋を近くのゴミ箱に捨て、布巾を水道で丁寧に洗ってはるに手渡した。

「掃除の邪魔しちゃってごめんね。またね~。」

「…なんだ、あれ…」

去り際は意外にアッサリで、今までの流れに呆気に取られていたが、閉まったはずのそのドアがまたすぐ開き

「…ごめん~。あの、トイレ借りても良い?」

と、顔だけヒョコっと出す様子に怒りを通り越して呆れてしまう。

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