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掃除婦の恋煩い

第2章 レッツゴーKY


エレベーターを降りると、フロアのあらゆる場所から賑やかな声や音が聞こえてくる。
話し声も電話応対なんてもんじゃなくて、あちらこちらで飛び交う様子から、事務がメインという感じはしない。

廊下を進んでいくと、脇には雑誌や機材が寄せてはあるものの剥き出しで置いてある。

「…キャリーに注意しなきゃ」

そんなに広くない廊下でも、あちらこちらにある物のせいでキャリーで足元が見えないとぶつけないか心配だ。
少し物が無い場所で、キャリーの向きを変えて後ろ向きに進んでいく。ゆっくり、でも確実な操作で進みながら様子を伺う。
会議室には使用中の看板。
給湯室やトイレを横に見て、一番奥の一番広い部屋に向かう。

曇りガラスの向こう側では人が動き回っている様子がシルエットでも分かる。

(一声掛けて、先に人が少ない場所からやるべきか決めよう)

人が沢山いると、掃除が邪魔になる場合もあるし、逆に物が散乱していたりゴミが散らかっているので早く片付けて欲しいと望まれる時もある。
それは聞いて行うものではなくて、雰囲気で察すること。

キャリーを一旦端に寄せ、扉をノック。

「失礼しま…す…」

あれだけ騒がしかった空間が、扉を開けた瞬間に一瞬で静まる。
雑誌や書類、パソコンが所狭しと置かれたデスクが沢山あり、そこに座っている人や動き回っている人などがいた「はず」なのに、時が止まったかのように皆が一斉にはるを見つめるという異様な光景に、思考が停止する。
雰囲気で察するどころじゃない。

「あ、あの…いつもこちらに伺っている吉田がお休みの為、一週間ほど代わりに伺わせて頂くことになります、金泉といいます。至らない所も多々あるとは思いますがよろしくお願いします」

一礼して直っても、まだフロアの時は止まったまま。

(何だろ…どうしたんだろ。私変なことしたかな…)

良く分からないが、ここには居ない方が良さそうだ。

「すみません、では最初にトイレや窓ガラスの拭き掃除から入らせて頂きます。もしこちらで用事がありましたら気軽にお声がけ下さい。失礼します。」

未だに反応がない空間に声を掛けて、一礼して退室した。

「???」

頭には疑問符が浮かぶが、とりあえずやることをやらなきゃ仕事が終わらない。
またキャリーの向きを変えて後ろ向きに進んでいく。
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