第1章 出会い
6話 唐沢の不安
「んじゃ、今日はこれで終わりで、帰るか。」
一通りバトンの受け渡し方やテークオーバーゾーン内での待機場所も決定したんで今日のところは終わりにする。
「うん、そうだね。麗ちゃん、帰る?」
「いや、私は図書委員の仕事があるから。」
鏡はそれだけ言ってさっさと荷物をもって教室から出て行ってしまった。
そんな鏡の後ろ姿を見つめながら唐沢が珍しく神妙の顔をしている。
「なあ…俺、鏡に嫌われてんのかな…」
少し落ち込んだように言った唐沢の言葉に秋は先ほどの鏡の言葉を思い浮かべる。
(相変わらず騒がしい奴…か。それだけじゃ嫌われてるとも断定できないな。)
結論を出すのは早過ぎると秋は思い唐沢に尋ねる。
「なんでそう思うんだ?」
「いや、なんか俺がいると目つきが鋭くなってさ、なんかしたのかな、俺。」
腕を組んでうーんと唸る唐沢。すると
「そ、そんなことないと思うよ?」
今まで唐沢の話を聞いていた白川が言う。
「だって、さっきだって西野君に続いて唐沢君に励ましてたでしょ?」
大きな眼をさらに大きく開いて白川が言う。
「いや、あれは秋も鏡も俺にプレッシャーかけてただけだよな?」
唐沢が困ったように笑いながら言ったが、白川は首を振る。
「ううん?そんなことない、緊張するっていってた唐沢君をの緊張をほぐそうと西野君も麗ちゃんも唐沢君を励ましたんだよ。」
白川の大きな瞳でまっすぐに見つめられながらそう言われた唐沢は少したじろいでいる。
そして白川がくるっと秋の方を向き
「そうだよね、西野君!」
と、今度は秋の方をキラキラした目でまっすぐ見つめた。
(う、うーん、そうなのか?俺は無意識に唐沢の緊張をほぐそうとしてたのか?)
全くそんなつもりはなかった秋だがこんなにもキラキラして目で見つめられるとそんな気もしてくる。
(ま、なんにせよ、空気は読まなきゃな。)
「おお、俺はそうだぞ、たぶん鏡も白川の言った通りだと思うから、お前はこれまで通り接してろ!」
そういって秋は唐沢の背中をバンッと叩いた。