第8章 ちくちく
「あんまり言いたくないんだけど」
エルが俺を見て言った。
あれから俺の部屋に移動した。
未だにエルは何かが怖いのかあまり口を開こうとしてくれない。
「最近…その、なんというか…」
エルはうつむいたまま手を握りしめていた。
「母さん、が…おか、しくて」
「おかしい?」
「こう、おかしいっていうか…様子が変?…あ、いや違うな、忘れて。何というか」
「母さんが母さんじゃないんだ」
母さんが母さんじゃない。
つまり、エルの母親がいつもと何かが違うってことか?
「薬も持ってた、向精神薬とかいうやつ」
「あと眠くなるやつ」
「睡眠薬?」
エルは小さくうなづいた。
「このままじゃ多分、ダメだと思うから…さ?止めたんだよ、でも」
「昨日、また、見つけちゃって」
少しうつ向きながらもエルは喋ってくれた。ほんの一瞬だったが、少し涙目になっているようにも見えた。
「大丈夫か」
軽く指で出てた涙をふいてやると、エルが右手で涙をふいた。
「へーき」と言うと少し気持ちが軽くなったのかいつもの笑顔で笑ってくれた。少し安心して、俺にも笑みがこぼれた。
「はは、ロイが笑ってやんの」
「…な、何がおかしい」
ははは、とエルは笑い転げてた。何だかそれに恥ずかしくなって思わずエルの口を塞いだ。
「…………えっ」
ん、俺今何したんだ?ついさっきのことなのに何故か思い出せない。
エルが両手で顔を隠して転がってた。
「大丈夫…か」
「全然大丈夫じゃない」
何が起こったのかは理解できなかったが、まあエルが全部吐いてくれたから良かった。
小さくエルが「俺ロイきらいだ…」と呟いてるような気がした。
「悪かったって、な?」
何が起こったのかはわかんないけど、な…。
そうするとエルは片目で俺を見た。
「ロイのばか」