第9章 ゆっくり(エルSaid)
「誰も居ない、よ」
少し震えた声でそう言った。
「エル君よ」
「は、はい…?」
どこぞの女社長を気取るような風でイブキ姉さんが言った。気がつけば仁王立ちをしていて、腕を組ながら俺を見下ろしていた。
「好きな人が居なくて、そこまでなる者は居ないと思うのだよ」
腕を後ろに回してくるっと後ろに向いたイブキ姉さんが言った。
「いや、もうそれはわかったけど…強制ってのはちょっとさぁ…?」
そう言った途端にイブキ姉さんが俺の胸ぐらを掴んだ。びっくりしたキリーがあわあわとしてイブキ姉さんを止めようとしてた。
「私は貴方のお手伝いをしたいのでございまするよ?」
丁寧なのかよくわからない言葉だった。でも明らかに嫌らしいとは思った。
「そういうのは自分でやりたいんだけど…」
そう言うとイブキ姉さんがぱっと手を離していきなり大人しくなった。キリーも真似して何も言わなくなった。
「わかってないって事もあるわね、キリーちゃん」
「そうだね、イブキお姉ちゃん」
二人は目を合わせてそう言った。そう言うと俺を見てにっこりと笑った。
「楽しみにしてるわ」
「ね、お兄ちゃん」
女子って怖い。そう思った一日だった。