第7章 どろどろ(エルSaid)
母さんがようやく眠り始めた時に一階に降りてみると、台所の食器棚に乾かしてあった皿が数枚割られていた。
破片が床にも少し散らばっていた。台所の窓からさした月明かりが白い皿の破片を照らした。
ほうきとちりとりを持ってきて床に散らばった破片を一つずつ丁寧に拾っていった。
また、怒らせてしまった。あの時よりは怖くなくなったがやっぱり怖い。
拾い終わってゴミ箱に破片を入れて、シンクの破片を集めた。また外が電灯で電気を点けなくとも明るかった。
夜はこんなにも静かなんだな、と思った。
もうなんだか母さんの事は思い出したくなかった。考えるのも嫌になってきて全てが面倒くさくなった。
ふと気が緩んで破片がシンクに落ちた。軽く、小さい切り傷をつくってしまった。
指からは久しぶりに見る赤い血が少し見える。それを見て傷まわりをぎゅうと押してみる、そうすると血が浮き出てきた。
月明かりに照らされている自分の白い肌から出る血はなかなか綺麗なものだった。俺はそれを水で流し洗いして絆創膏もなにも貼らずにそのまま痛いのを我慢して部屋に戻った。
夕暮れに言ってくれたあの言葉は嘘だったのか、ただの俺へのおだて文句だったのか。
もしもそれがそうなら今頃俺は家を飛び出して大声で泣いていたと思う。
でも、耐えた。キリーも心配だし、あんな状態の母さんをさらけ出してはいけない。
何でか、もう嫌だと思った。いっそのこと死にたい。でもキリーが心配だ、ロイにもイブキ姉さんにも迷惑をかける。ダメだ、死んじゃダメだ。でも、つらい。
俺は、どうすればいいんだ。