第7章 どろどろ(エルSaid)
リビングに入って鞄を置こうとすると、また母さんが起きていた。
いつものようにバラエティーを見ている。とくに笑いもせずに無表情で見ているから正直面白いのか面白くないのかが全くわからない。
「エル、おかえりなさい」
母さんがこちらを向いてにっこりと笑ってみせた。良かった、いつもの母さんだ。
「ただいま母さん」
「あら」
母さんが何かに気づいたのか立ち上がった。
「頬の湿布どうしたの」
ああ、まさかと母さんは気づいた。あの時の事はあまり覚えていないようだった。
「ごめんなさい、エル。怪我させちゃって」
「平気だよ、これくらい」
「ああ、でも、痛かったでしょう、そうでしょう。ごめんなさい、ごめんなさい…」
母さんはそう言いながらそっと頬の湿布を撫でた。この前のキリーの撫で方だった。懐かしい、ふとそう思った。
「大丈夫、俺もう平気だから。気にしないで、それに気にしすぎは体に毒だよ」
少し苦笑いをしながらも、そう母さんに言い聞かせた。母さんは少し安心して、笑顔になった。
「お母さん、あの時エルが嫌いでやったんじゃないの。それだけは違うから、覚えておいて」
「許してちょうだい、お母さんのこと」
それに答えるように小さく頷くと母さんは俺に抱きついて、大好きよ、エルと言ってくれた。
俺はあのときの母さんと今の母さんが混じったせいで、今の母さんの言葉が本当なのか嘘なのか、わからなかった。
愛されるってどんなことだった?
俺には難しすぎてよく頭がこんがらがるだけだった。