第1章 じっくり
「にしても珍しいな、お前から来るなんて」
昔からどちらかといえばエルが俺を誘うのが定番だった。
たまにエルが俺の家に行きたいと言って、来ることもあったがエルが誘った時の方が頻度は高かった。
「んぁ?あー……今日は家に親が仕事で居ねぇからな、この年になっても寂しく感じるんだよな」
「じじくさいこと言うな、老ける」
「はは、そうか?」
エルは笑ってみせてそれから何かを懐かしく思うような目をした。
俺には何を思い出しているかは分からなかった。
エルの親は俺らが小学三年生の時に離婚した以来、母親とふたり暮らしをしている。
多分、仕事にしか手が回っていないのだろう。たまにメールやら電話をかけてくる時もあった。
その時は何だか気が楽になって元気になるらしいが、それは瞬間の出来事だからあまり自分では満足できていない。
考えすぎだろうか?
「どうした、ロイ 顔色ちょっと悪いぞ」
「…えっ………あぁ、気にするな。ただの考え事だ」
「あまり無理はするなよ なっ」
そうエルは言って俺の背中を軽く撫でた。そして笑顔を見せた。
こいつはいつも笑顔だ。