第5章 ぐさり
「何か言いなさい!」
必死に母さんが俺の肩を揺さぶる。もう涙もだらだらに流れていて怒り狂ったように真っ赤な顔をしている、ぐちゃぐちゃで母さんじゃない。もう誰かもわからない。
「母さん」
やっと口を開いたかと母さんは肩を揺さぶるのを止めた。
いつもより冷静に、慎重に、静かに言った。
「薬なんかに頼ってちゃ、ダメだよ」
「…え?」
「自分で治さないと、さ。看病とか協力ならするよ、その為にキリにも話さないとでしょ。だからその時にも言いやすい…とかそんな、さ。だから、母さ」
何かが弾けた音がした。
左頬に熱い刺激を感じた。叩かれた、それも母さんに。
初めてだ、こんなこと。
「え」
ふと無意識に弱々しい小声がもれた。
母さんはぐちゃぐちゃの顔で息を調えながらまたぺたんと座った。
俺は何も言わずに部屋を出た。ひどく寒い廊下だった。