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ぼっそり

第5章 ぐさり


朝早く、つまり早朝。不思議と物音がする。
そんなに大きな音ではない、微かに聞こえる程度でたまに壁を叩いたような音がする。
部屋が寒いと言って隣でキリーが寝息をたてて寝ている。
物音が聞こえていないみたいだった。
あまりにも不思議だから、そっと布団から出て静かにドアを開けて廊下に立った。
物音の原因は明らかに母さんの部屋からだった。

こんな夜中に片付けか?…いや、それはないな。

母さんの部屋に立ち、小さくノックをした。
物音は消え去って母さんが少しドアを開いて「なあに?」と聞いてきた。

「どうかしたの、母さん」

「探し物よ、起してごめんなさいね」

「いや、いいよ。俺も探そうか」

母さんは少し暗い顔をしながらも、俺を部屋にいれた。
相変わらず、何もない。こんな部屋で物なんて失くすのだろうか。

「薬が無いの」

「薬…?」

ハッとした。俺が昨日ティッシュにくるんで捨てたものだ。それも全て。

「あれがないと困るの。私、どうすればいいのかわからない…だから早く見つけないと」

ダメだ。ダメだ母さん。そんな事をしちゃ。
俺はどうしても母さんに捨てた薬を返そうとはちっとも思わなかった。むしろ、返すものかと思っていた。

「母さん、その薬の事なんだけど」

「捨てたよ、全部」

母さんは手を口にあてて今まで見たことないような驚く顔をした。少し心にその顔が突き刺さった。

「どうして」

小さな声で呟いた。

「…どうして?」

「どうしてそんなことをしたの?」

母さんはその場にしゃがみ込んで、悲しい顔をした。
何かが違う、俺の知ってる母さんじゃない。

「答えてなさいよ」

「答えてよ」

少し泣きじゃくりながらも母さんはそう言った。それをずっと黙り込んで見ていた。

「エル!」

いきなり立った母さんが俺の肩を掴んだ。
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