第19章 面倒
悲しそうに言う氷月の首筋に赤い何かが見えた
蒔「あなたに幸せを殺されたんだよ!」
『はい』
蒔「だから殺す!!」
『はい』
切「明奈...」
明「切原君...」
『君達は人を殺していない。大丈夫、僕が君を見逃すよ』
蒔「それで何!何なの!殺人鬼っ!!」
『っ...、僕は、僕、だって...!』
氷月も苦しそうに何かを言い返したそうじゃった
じゃが、それを噛み殺して喉の奥に仕舞い込んでおる
『僕だって、殺したくなかったよ。でも...。いや、やめておこう』
蒔苗の拘束を解いて立ち上がる氷月は不完全燃焼のようじゃ
『皆の明日が欲しかった...、大空を見上げたかった...。それだけさ』
小さく吐いた言葉にあの梅雨の時期を思い出す
上風「氷月の眼は暗闇に慣れすぎて光に弱いんだ。昼間の空を眺める事も出来ないし、月光の強い日も見る事が出来ないんだよ」
『優真...』
俺達に、優真に向き直ると氷月は優しく名前を呼んだ
『大河、いますね?』
?「正解」
森の奥から冬に見かけた大男が現れた
『僕を殺しますか?』
大「望むならな」
『クス、やめておきます。彼女達の事は、不問でお願いします。僕の後味が悪いので。これをお願いします』
大河に向けて銃を投げつけた
『これで彼女達の罪も消えました。僕はそれだけでいいです』
大「本当に丸くなっちまって」
木々の影で大河の顔はよく見えんが何処か嬉しそうな声じゃ
跡「思い出した。お前、何年か前の殺人鬼だったな」
『否定はしません』
河「え!」
『どうしますか?今から警察に通報しますか?』
...誰も何も言わんかった
氷月の目には
仁「!」
助けてと訴えておった
それを見るのが辛くなった俺は氷月の元へ歩き
小さな肩を抱き寄せた
仁「大丈夫じゃ。俺達が守ったる。安心しんしゃい」
『仁王君...』
少しずつ瞼が下がって行き、俺の体に全体重を預けて眠りについた
仁「やっぱりか」
首筋についておった赤い液体は先程の球が肩に掠ったようじゃ
氷月の体を抱き上げて館に向かおうとする
跡「仁王、お前」
仁「コイツは人間じゃ。化け物でも、妖怪でも、鬼でもなか」