第18章 殺伐の春
氷月の細い腰を抱き寄せて後頭部を抱える
風呂に入ったのにも関わらず
寝ていた事によって少しだけ体温が冷たい
俺はこの少しだけ冷たい体温が大好きじゃった
氷月は基本、されるがままになっておる
自分の意思が低い
誰にも迷惑がかからんようと自分の意思を殺し
相手の意志や希望を叶える
まだ本物の氷月はこの世界に戻ってきてはおらん
前と思うと本当に人間らしくなった
何時も何を考えておるのかわからん無表情で
何処か冷たい視線は俺の内側を覗かれた
あの時は正直に怖かった
出会ってそこまで会話をした事もおらんのにのう
『あの、少し苦しいです』
仁「すまんすまん」
抱き心地のええ体じゃ
女にしてみれば高い身長
身長の割には無さすぎる体重が心配じゃ
胸は目立たんのは少しだけ俺が寂しいがのう
俺の胸は高まるばかりじゃ
『...運動でもしましたか?』
仁「どうしてじゃ?」
俺の胸に押し付けている氷月の声は柔らかい
あの時の他人行儀の台詞は消えておった
『いえ、心拍数が速いので』
仁「好きな女を抱いておるんじゃ。そんなんで心拍数があがらんヤツがおったら見てみたいのう」
『...好きな人を抱いていると心拍数が上がるのですか』
物珍し気な表情で俺の顔を覗き込む
仁「...悪質じゃな」
俺は自分の恥ずかしい表情を見られんように強く胸に押し付けた
『...この音は心地いいです。音楽プレイヤーで聞いている音楽よりも癒されます』
仁「そうなのか?」
『はい』
仁「...氷月。お前さんがいくら断っても俺はお前さんの事が好きじゃ」
『......』
仁「俺はお前さんを諦める事が出来ん。大好きなヤツを危険に会わせたくないんじゃ。頼む、俺達が不安じゃから。傍にいさせてくれ」
『仁王君』
仁「雅治じゃ。いい加減、そう呼んでくれんか?」
『...雅治、君』
小さく呟かれた言葉にトクンと心臓が騒いだ
ああ、やっぱりコイツは手放せんぜよ
名前を呼ばれただけなのにこの心地よさにはニヤケてくる
『雅治君。僕は怖いです』
仁「?」
『僕は自分の身はどうでもいいんです。死なない程度でしたら。しかし、あなた方に何かしらの事が起きたら、不安です』
仁「ええんじゃよ、氷月」