第17章 甘い日
甘いバレンタインデーは消え去り公園でそのまま別れた俺達は帰路に立った
先程から氷月は上の空になっておる
仁「氷月」
『何でしょうか?』
仁「お前さん、あの男は」
『ああ、あの人ですか。察しの通りです』
やはり10年以上前に起こった重要参考人じゃったか
『罪人として生を終えるか、政府の犬となって生涯を尽くすか選んだのでしょう』
仁「それであの重要参考人があんな所に居ってもいいのか?」
『意外と、僕の監視かもしれませんね』
仁「......」
『これでも一応僕もあの事件の重要参考人です。再びナイフと拳銃を持って立ち上がった時の対処として彼が選ばれたのでしょう』
仁「それ、本気で言っとるんか?」
『本気です』
俺が立ち止まると、今度は氷月もすぐに立ち止まり俺を見る
先程の相手を殺すような視線や恐ろしい雰囲気はなく
何時ものように冷たい視線と俺を魅了する不思議な雰囲気を醸し出す
そして最近
『大丈夫です。僕は二度も同じ過ちを犯したりはしませんので』
そう言って柔らかい視線と暖かい雰囲気を出す事が出来るようになっておる
この時の表情は微笑んでおるからわかりやすい
じゃが、イマイチ使い方を理解しておらん様子じゃ
最初と思うと自分の気持ちに素直になり表情に出す事が出来ただけで今は合格ラインじゃな
いつの間にか歩き出して居った氷月の後をゆっくりとした足取りで追いかける
雪で何時もより歩幅が狭くなり進める距離が短い分
氷月はそれに慣れておるのか何時も通りに進んでいく
俺の足は自然と重くなり氷月との距離は開いて行く
『足の裏全体を地面にくっつけてから、重心をやや前に倒すと次が出やすいですよ』
振り返りざまに氷月は俺に言う
『足の裏全体で地面にしっかりと置きます。その次に踏み出した足と地面が垂直になるようにして重心を前にすれば、ほら』
そう言って俺に向かって試し歩きを見せてくれる
『慣れれば問題ありませんので』
ふわりと微笑んだ彼女は俺に背を向けて再び帰路に立つ
俺は言われた通りに歩いてみると不思議と歩幅が広がった
確かに歩きやすい
マンションの入り口で氷月が待っておった
『器用ですね』
仁「お前さんの教え方が上手いんじゃよ」