第16章 明かりが欲しい
「おにいちゃん、元気になったんだね!」
『はい、ご迷惑をお掛けしました』
昼が過ぎたくらいに奈々子ちゃんが顔を出してくれた
母親と共に来ていた
「ごめんなさい、主人は今日から仕事だったので朝早くから行ってしまったわ」
『お気遣いなく、大丈夫です』
周りには皆が居てくれる
都美子さんと誠さんはコーチの仕事で出てしまっている
『皆さんはスキーにいかないのですか?』
幸「俺はスキーよりも氷月と居る方が面白いからね」
真「お前を1人にしておくと無茶するからな、監視だ」
部の部長と副部長に言われてしまえばこちらは何も言い返せない
と言うか、部長の言葉は少しだけ意味深に聞こえた気がする
「おにいちゃん、けーきすき?」
『?、そうですね。甘いのはあまり好きではないですが、作るのは得意ですよ』
「そっか、おにいちゃんにけーきもってきたの!」
渡されたお皿の上には僕が作ったミルクレープが乗っていた
『これは僕の作ったケーキですね』
「おにいちゃんがつくったの?」
『はい、此処の厨房...えーっと、料理をする所を借りて作りました』
切「え、あの年越しの時のケーキって」
『殆ど僕が作りました』
丸「すげー美味かったぜ!」
『それは良かったです』
「おにいちゃん!あーん!」
『?』
奈々子ちゃんはベットに身を乗り出してフォークの先に刺さっているミルクレープをこちらに向けていた
「「!!」」
『...味は落ちていませんね』
「おいしい?」
『はい』
「よかったー!」
僕が作った物だとわかっていて口に突っ込んだのかな?
後ろで母親は自嘲気味に苦笑を漏らしている
『残りは食べてくれませんか?』
「きらい?」
『いえ、お腹がいっぱいなので』
「そっか、わかった!」
小さな丸い椅子に腰を下ろして美味しそうにケーキを頬張る奈々子ちゃん
クリームが口の端に付くと母親がティッシュで拭う
〈やめて、お願いだから〉
『っ...』
頭の中で響く僕の母親の声
悲しそうな顔で苦しそうに叫ぶ声が今でも耳に残っている
「おにいちゃん?」
『!、はい、なんですか?』
「怖い顔してるけど、大丈夫?」
『大丈夫ですよ』
「そっか、うん!」
何かに納得すると親子は医務室を後にしていった
母親の声が何度も頭の中を反響する