第16章 明かりが欲しい
白川側
『僕に、恋愛感情はありません』
仁王君にハッキリと言えば優しい目をしたままだった
頬に触れるその大きな手がとても温かくて
脇腹の痛みはほとんどなかった
仁「わかっとる。お前さんに恋愛感情がないのは」
優しい口調、綺麗な表情、柔らかい視線
学校で人気の理由がわかったかもしれないと思っているが
きっとそのわかったは1割にも満たないだろう
実際、僕は仁王君の事を知らないし、まだわかっていない
出来損ないの人間が、この人と何かが釣り合う訳ではない
テニスでも、交友関係でも、恋愛関係でも
だから近づき難いし、近づいてはいけないような気がした
聞きたくない言葉をハッキリと言い当てる仁王君は
僕にとって一番欲しい言葉であり、自分を甘やかす物
甘い、強い痺れをもたらす永遠の毒であるからだ
それに酔いしれてもいけないし、乗ってもいけない
仁「そんな悲しい顔をしなさんな。大丈夫じゃ、何時でも返事は待つナリ」
『待たなくてもいいです。きっと一生、恋愛なんてしないと思いますので』
仁「...自分を見失うのが怖いんか?」
ほら、当ててきた
この詐欺師は相手の感情を手玉にする事が出来る事でも有名だ
彼との時間は何時もよりも長く感じ周りの時間がゆっくりになった錯覚を起こす
ドキドキとする胸の鼓動は何時もより速く
苦にならない息苦しさが心地よい
『自分がわからないのに見失う事の恐ろしさがわかりません』
仁「甘えてもええんじゃよ。お前さんは1人で頑張りすぎじゃ」
この冬に何度聞いたのだろう
甘えても良い、だけど
『甘え方がわかりません』
仁「そうじゃのう。楽しい時、嬉しい時、寂しい時なんかを言葉で表現するんじゃな」
『それとどのような関係が?』
仁「お前さんは兎に角、自分の中で押し殺す癖がある。まずはそこを言葉に変えて相手に伝えるんじゃ。そうすれば、自分に素直になり、自分の欲しい物が分かる」
『それは「甘え」ではないのですか?』
仁「その「甘え」を見せて欲しいんじゃ。そうすれば、俺はお前さんの事が1つずつわかるナリ」
『...よくわかりません』
仁「まあ、それは慣れじゃな。欲しい物をねだる時、誰かと一緒に居たい時等が簡単に挙げられるかのう」
『...誰かと、一緒に...』
居たい