第13章 テニス
『アリィとテニスをして負けた時にあげたのです』
仁「!、お前さんがか」
『初めは誰でも負けますよ。向こうに行ってすぐの頃だったので』
仁「そう言う事か」
マジシャンになる前に吹っかけられたんか
懐かしいように話す口調、寂しそうな目つき
これを見ておると氷月もちゃんとした人間なんじゃなと思ってしまう
『素直な人は嘘付きであり、嘘つきな人は素直である』
仁「?」
俺の目を見てしっかりと言う氷月
『コーチが生きている時にアリィと3人で映画を見に行ったのです。その時のセリフをコーチをアリィは気に入っていました』
仁「どう言う意味なんじゃ?」
『それは...、言ったらいけませんね。仁王君の頭の良さだったらすぐにわかるはずです。僕は当時、わかりませんでしたが、今年の3月にわかりました』
仁「それまで考えられんかったからか」
『そうですね。アリィの事でいっぱいでした』
心苦しそうに言う氷月に俺はなんて事を言ってしまったのじゃろう
コイツは友達のためなら自分が犠牲になってもええと
今でも考えておるじゃろう
その結果があの時の暴力集団を鎮圧した時によくわかった
マフラーを洗うために洗面所に向かう氷月を窓ガラスで確認し
俺は俺のしでかした事に深く後悔する
氷月から貰ったマフラーを無意識に握り締めておった
『何をお考えになっているのですか?』
頭の上から聞こえる声にハッとし、上を見えあげると
そこには氷月の顔があった
息はかからんものの誰がどう見ても近い
俺の鼓動は速さを上げていく
仁「あ、え...」
『...貴重な仁王君を拝めました』
楽しそうに言ってから俺の隣に座る
俺の頬は熱を上げておる
いかん、こんな所を見られたくなか
氷月は悠々とカップを手に取り、それを口に持っていく
カップを机に置くと何時も通りに本を開き読書を始める、が
仁「?」
『......』
氷月は何度も自身の掌を見つめておった
仁「痛めたんか?」
『あ、いえ、痛めていません。昔に見た夢は今は見なくなったと思っただけです』
仁「夢?」
『はい。まあ、グロイので話しませんけど』
グロイ夢?
コイツは一体何を見とるんじゃ
これでよく自分を保てておるな