第13章 テニス
仁王側
氷月の足を落ち着かせるように優しく撫でる
分厚いズボンの上からしっかりと震えているのがわかる
何が怖いのか、恐ろしいのか、それとも不安があるのか
負の感情が彼女を再び飲み込もうとしておるのじゃと思う
体は素直じゃ
どれだけ上辺だけの言葉を口に出しても
体は素直に反応を示す
精神的な問題が彼女の襲って居るのじゃろう
時期も時期じゃ、雨は降っておらんが
隣の扉が閉まる音が聞こえ慌てて後をついて行ったらこの結果じゃ
氷月の足は次第に落ち着きを取り戻し
本人も安堵のため息を吐く
仁「穴に落ちたんか?」
『正確には、落ちそうになった、です』
どうやら間一髪の所で掴めたらしいのう
仁「動けるか?」
『はい』
俺は立ち上がり氷月に手を差し伸べた
『ありがとうございます』
そのまま俺の手を取ろうとするが
『あ...』
途中で引っ込めようとした
俺はそれを逃さずに掴み立たせた
仁「今日は帰るナリ」
『わかりました』
ラケットを鞄にしまい、俺が取る
仁「俺が持ってく」
『しかし』
仁「ええんじゃ」
『...わかりました』
歩き出そうとする俺
『仁王君』
仁「なんじゃ?」
『寒そうだったので』
俺の首には先ほどまで氷月が使って居ったマフラーがあった
邪魔にならないよう左肩の前後に先端を垂らす
使われていたから暖かい
そこから香る氷月の匂いが
俺の鼓動を上げていく
仁「...じゃが」
『持ってくださるお礼です』
仁「ありがとさん」
氷月は自分の部屋のソファーに深く入り込む
家を留守にするから暖房は消していったそうじゃ
部屋が冷蔵庫のように寒い
仁「これ、洗って返すナリ」
『あ、大丈夫です。もうそれ、使わないので』
仁「俺が使ったからか?」
『いえ、違います。アリィが高校へ上がったらとマフラーをプレゼントされたので、それを使いたいのです』
仁「そうか」
『ご迷惑でなければ貰ってください。中学3年間使った、一種の相棒です。要らないのでしたら処分しますので』
仁「貰ってええんか?」
『ご迷惑でなければですが』
仁「なら貰うなナリ」
『押し付けるようでごめんなさい』
俺は両手にコーヒーカップを持って隣に座る