第10章 知らないフリ
白川側
?「...骨に異常は見られなかったよ」
『そうですか』
行きつけの病院、と言えば少し語弊がある
此処にお世話になるのは大体梅雨の時期が通り過ぎた後や
連日の雨になどで体調不良で通う事が多い程度
そして、今見て貰っているのは担当医とまではいかないが
結構な頻度でお世話になっている田中さんである
田「最近のテニスはこんなんばっかかい?」
『どうでしょうか?』
田「とりあえずは絶対安静。右を使わない事。いいね?」
『わかりました』
首から白い布が下がっており、そこには右腕が吊るされている
腕は見るに耐えない程のもので
内出血が酷く、腕が青紫色に染まっていた
切原君の言う通りにテニスをしていれば赤くなるのも時間の問題であった
田「とーにーかーく!その腫れが収まるまでは絶対に動かすなよ!」
『わかりました』
かなり強く念押しされた
『失礼しました』
田「絶対だぞー!」
扉を閉めても向こうから聞こえる念押しの声をバックに
皆さんが待っているロビーへ向かう
上風「氷月...」
『優真...』
ロビーに出る前の廊下で優真と出会う
上風「フード、被らないのか?」
『...被る元気もないさ』
上風「寝てないんだろ?」
『よくお分かりで』
上風「俺、そんなテニスを氷月にやってほしくなかった」
『はい』
上風「身体的にも精神的にもテニスを奪われて、俺、氷月に再開した時、なんて声を掛ければいいのか分からなくて」
『優真』
優真はゆっくりと僕に近づきフードを被せた
上風「強すぎるが故に虐められる意味がわからなかった。俺はそこまで賢くないし、逆に尊敬するから。ソイツが努力して手に入れた物を馬鹿にする奴らが、俺には許せない」
『大丈夫です。僕が優真を守りますから』
上風「守らなくてもいい。だから、自由にテニスをやってくれよ。それが俺の望み、なんだ...」
『わかりました。精一杯努力します』
上風「おう。行こうぜ。先輩達、待たせているから」
『ええ、そうですね』
隣に優真が並び、一緒にロビーへと向かった
自由なテニス、してみたいよ