第9章 夏休み
宿題が全て終わったのと同時にインターホンが鳴った
僕は玄関まで行き扉を開ける
仁「こんばんわ」
『こんばんわ』
仁王君は部屋に上がるとリビングのソファーに座る
これはもう定番である
僕はコーヒーを入れて渡す
『どうぞ』
仁「ありがとさん」
仁王君は一口飲む
仁「ん、いつもと変わらん味じゃな」
『どうも』
僕も一口
仁「お前さん、岩場の所で笑っておったよな?」
『自分の表情は見えません』
仁「じゃあ、笑っておったぜよ」
『じゃあ、って』
仁「お前さん、俺の小さい頃のパートナーに似とるんじゃ」
『......』
仁「俺がテニスを教えてたのに、あいつの方が上手くてよ」
『そうなんですか』
仁「組んでも俺は自由に打たせて貰って、ソイツには打たせてやれんかったんじゃ」
『生憎ですが、僕はテニスをする事は嫌いです』
嘘だ
でも、そう言っておかないと
僕の何かが崩れてしまう
仁「俺はソイツのテニスに惚れたんじゃ。楽しそうに打って、笑顔でこっちに向いて。俺が縛って居たのにもだ」
低い声で言う
『逆に考えてみればいいじゃないですか』
仁王君はこっちを向き僕の顔を見る
『縛って貰っているからこそ、自分が何をすればいいのかわかると。その人はきっと仁王君に迷惑をかけたくなったんだと思います』
仁「どうして、そう思うんじゃ」
『さあ、なんででしょうか?僕にもわかりません』
仁「......」
『名前とかは聞いていないのですか?』
仁「ああ、聞いていないんじゃ」
『では、探すのが難しいですね』
仁「俺達は互いの自己紹介をしとらんかった。でも、俺はソイツの事を陰と読んでおった」
陰
陰?
何処かで聞き覚えがある名前だ
でも、思い出せない
仁「陰と言っておった事しか思い出せん。姿も覚えておらんのだ」
陰
言われて思う
懐かしいと
仁「?どうしたんじゃ?」
『いえ、なんでもありません』
僕は現実に引き戻された
仁「明日からはどうするんじゃ?」
『まだ、何も決めていません』
仁「なら、俺と何処か出かけんか?」
『僕とですか?』
仁「嫌か?」
『いいえ、いいですよ』
仁「じゃ、明日迎えに行くぜよ」
仁王君は立ち上がってコップを渡してきた
いつの間に飲んでいたのか
そして仁王君は帰って行った