第3章 「動き出す歯車」
《黒バイクに乗ってるのは、人間じゃないの》
【じゃあ何なんですか?】
(やっぱり幽霊とかですか?)
[はは、幽霊ではないと思うよ]
《ドタチンなんかは死神だって言ってた》
(ドタチン?)
《実はね、私も見たことがあるの。あの黒バイクが人を追いかけているところ》
【ドタチンって誰……?】
《何て言うかね、あんなのを持ってる時点で普通じゃないんだけど》
【え、スルー? ドタチンって誰!?】
《最初はよく解らなかったんだけど、あいつの身体から》
(…………)
(……?)
【甘楽さん? どうしました?】
[落ちたっぽいね]
(ですねー……)
【ええ!? そんな、どっちの話も中途半端なのにっ。身体から何が出てくるの!?】
【そしてドタチンって誰っ】
* * *
“影”は少女が後ろに下がったのを確認すると、男たちの方に向かって静かに歩を進め始めた。
夜の冷たい風が男たちの頬を撫でる。
それは頬を伝う汗により、彼らの混乱した脳に寒気を認識させる。
「結局素手か、その度胸だけは褒めてやろう」
怯える男と逆に、リーダー格の男は覚悟を決めたようだ。
彼は目を鋭く光らせ、手にしたナイフを持って“影”へと近づいていく。
距離にして三メートル、後二歩でナイフが届く距離になる。
男はリーダー格の男を援護しようと、鉄パイプを持って後に続く。
そして仲間の放つ殺意に勝算を見出だした男は、自らもまた鉄パイプを握る手に力を籠(こ)めた。
しかし──次の瞬間には、男たちの勝算は殺意ごと吹き飛ばされてしまう。