第3章 「動き出す歯車」
ドラマなどでよく流血シーンはあるが実際に見るのは初めてで、彼女はいつでも逃げられる体勢をつくる。
しかし、それは直ぐに崩れてしまう。
「危ないっ……!」
「……!」
男の一人が影にスタンガンを押し付けようとしているのを見て、少女は声を上げ慌てて足を前に出した。
突然出てきた第三者の声に男たちや影は驚く。
そのせいで影は、スタンガンを持って此方に向かってくる男に瞬時に対応することができなかった。
「ぐぁっ!」
「……!?」
間に合わないかと思われたその時、スタンガンは男の手から離れ、二回打撲音が聞こえた。
男は突然襲ってきた痛みに驚き、バランスを崩して後ろに倒れる。
遠くでスタンガンの落ちる軽い音がし、影はその状況を理解する。
突然現れた人物が、影を守るようにスタンガンを足で弾き飛ばし、そのまま男の腹に蹴りを入れたことを。
少女は小さく息を吐き、上げられた足を静かに下ろした。
「何だー? 今はお嬢ちゃんみたいな可愛い娘が出る幕じゃないぜ?」
近くにいた警棒を持った男は仲間を蹴った人物が女の、それも子供だと知ると笑ってそういった。
そして値踏みするかのように、彼女を下から上までじっくりと見る。
『ダメだ、此処は危ない……』
此処にきてやっと、影が口を開いた。
否、正確に言えば進化した手帳──キーボード付きのPDAから打たれた文字が言葉を発した。
そして影が続きを打とうとした時、少女は振り返って口を開く。
「大丈夫ですよ」
その顔には優しい微笑みが浮かんでおり、まるで相手を安心させるかのようだった。