第41章 暗鬼による確信による、
ふわり、冷気が背中をなでる。
場違いなまでに明るい声は、すぐ頭上からだ。
声の主は、きゅ、と私抱きすくめる。
「これも君のシナリオどおり?」
そう言った、私を見下ろすすみれ色の瞳が、愉しそうに弧を描く。
――イヴァン・ブランギンスキ、その人だった。
背後から、ほとんど羽交い締めのように四肢の自由を奪われていた。
力が強いわけではない。
むしろ、傷つけるつもりはないとでもいうように、その手つきは優しい。
これから頭でも撫でられそうな具合だ。
なのに、イヴァンの腕から抜け出せそうな気がしないのは、震えるくらいの恐怖を感じるのは、どうしてなのか――
キン!
「わぁっ」
金属音とイヴァンの緊張感のない声がほぼ同時に上がり、私の体が自由を取り戻す。
前につんのめりそうになるのを堪え、首だけを動かして音の方向を見ると――菊とイヴァンが、日本刀と水道管でつばぜり合いをしていた。
「公子さんに何か御用ですか」
「きっとみんなと同じだよ?」
菊の瞳が暗く閃く。
無表情に一太刀、真正面からそれを受けるイヴァン。
二人の声に温度はなかった。
菊がここまで怒りを露にしているのは、初めて見る。
いや、菊の険しい表情は、怪我の痛みを堪えているからもあるだろう。
「逃げてくださいっ!」
菊が短く叫ぶ。
その瞳はイヴァンを見据えたままだ。
遅れて、私に向かって放たれた言葉だと理解する。