第39章 錯綜と進む針と
声とバァン! という音は同時だった。
返事をする間もなく、扉からアーサーが姿を現していた。
「な、なんだい突然!」
「あっ、お前ここで居眠りしたのか!? ほっぺたに跡がついてんぞ」
「えっ本当かい?」
「ったくいつまでたってもガキだな。ガキは目のクマなんか作らず寝ろっつーの」
やれやれと大げさに肩をすくめるアーサーに、カチンとくる。
「う、うるさいんだぞ! だいたい君が大量の書類を持ってくるせいもあ――」
「あーうるせえうるせえ。要件は一つだ。“消失”が起こる」
「っ!」
簡潔に言い渡され、アルフレッドは息をのんだ。
“消失”の予測は、おそらく今最も取り組まれている課題のひとつだ。
精度はよくないばかりか、科学的根拠に乏しいものを根拠にしている予測もある。
しかし、アーサーの真剣な瞳は、それ以上のことを物語っていた。
「……彼女が……?」
囁くように問うと、アーサーは小さく頷いた。
「わからないが、おそらくな。前、公子が来たときの数値のデータあったろ? 僅かだが、それと似たような数値の動きが見られる」
「ほ、本当かい!」
「まだ確信はできないけどな」
目の前にちらついた希望に、朝日がもっと眩しく感じられる。
ベッドで眠れなかった疲労を追いやり、アルフレッドは外出の支度をし始めた。
「……どうして黙ってる」