第10章 Like a Stray Dog【ギタリスト】
アパートまであと数分。私たちはいつものコンビニに立ち寄った。
自動ドアが開いた瞬間、店内の容赦ない蛍光灯の光が、私たちの輪郭を暴力的に暴き出す。
ステージの熱っぽいライトとは真逆の、安っぽくて冷たい、現実の光。
彼は深く被った帽子の下で目を細め、ひどく居心地が悪そうにレジへ向かった。私はあえて離れた場所で、アイスの棚を眺めるふりをする。
店員が無機質に告げる煙草の番号ふたつと、合計金額。
脚光を浴びて誰もが手の届かない場所にいると思わせてた、あの背中は、ここではただの、夜に彷徨う、誰も気に留めない男にしか見えなかった。
店を出ると、湿った夜風がまた私たちを包み込む。
煙草の箱を私の目の前に突き出した。
「ほら」
受け取ると、それは私がさっき切らしたのと同じ銘柄。
それと、もうひとつ。
彼がいつも吸っている、もっと重くて苦い銘柄の箱。
「自分の分だけでいいって言ったのに」
「明日も吸うだろ」
それは、明日も俺の隣にいろという、彼なりの不器用すぎる契約の更新だった。
私は新しく手に入れた箱のビニールを爪で裂き、一本取り出す。
彼は待っていましたと言わんばかりに、自分のZIPPOを差し出した。
暗闇の中で火が爆ぜ、オレンジ色の光が彼の尖った鼻先を微かに照らす。
「これで、貸し借りなしね」
私が吐き出した煙を、彼は満足そうに眺めている。
コンビニの駐車場を横切り、私たちはまた歩き出す。
新しく封を切ったタバコの味は、さっきよりも少しだけ、苦みが抜けているような気がした。
アパートの階段の下まで来ると、彼はまたわざとらしく、私の腕に自分の腕をぶつけてきた。
今度はもう、文句を言う気にもならない。
煙草の火がふたつ、ゆっくりと並び歩いてる、それだけ。
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