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恋愛短編集

第9章 ストリーミング・トラップ【元彼】





やがて、物語の終盤で一番好きだった、あのシーンがやってくる。


画面の中のキツネが、
少しニヒルな、意地悪な仕草で微笑む。
 
『You know you love me.』
 
かつて、このシーンになるたびに、
私は決まって隣に座る彼の顔を覗き込み、
そのセリフを真似していた。

彼はそのたびに、困ったように眉を下げて笑ったり、
あるいは少しだけ独占欲を滲ませて私を抱き寄せたりした。
 
今の私は、誰もいないソファで、そのセリフを口にする。
 
「……You know you love me」
 
声は虚しく空気に溶け、
画面の青白い光が私の孤独を縁取るだけだ。

もう再生履歴には刻まれてしまった。
私は半分自棄になって、ソファに深く沈み込み、画面を見つめ続けた。
 

――Do I know that? ……Yes, yes I do.

その返事は聞こえないまま。
画面のナマケモノがゆっくりと、笑みを浮かべている。

 
その時だった。
画面の右上に、小さな通知ポップアップ。
あの映画の続編。
それがお気に入りに登録されたという通知。
 
……配信、始まっていたんだ。
見ないようにしていたのは、私だったのかもしれない。
 
私は今、リモコンを置いて映画を観ているだけで、
操作は何もしていない。

考えられる理由は、一つしかなかった。
 
彼が、今、別の場所で、このアカウントにログインしている。
そして、私がこの映画を見ていることに気付いたんだ。

あの日果たせなかった約束の続き、
あの映画の続編をリストに追加している。
 
「……ずるいウサギ。」

声が震えた。これは偶然なんかじゃない。
この「続編」の登録は、
彼からの無言のメッセージだった。
 
画面を見つめたまま、
動けない私のスマホが、短く震えた。

表示されたのは、
この数ヶ月間一度も届かなかった、
彼からの短いメッセージ。
 
『Dumb fox』
 
たったそれだけ。

たしかに、その通り。
……そう思ってしまった時点で、もう戻れない。
 
映画のエンディングロールが流れる中、私はようやく悟った。

続編があるのは映画だけではない、ということを。
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