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恋愛短編集

第8章 髪を切ったら、“知らない恋”に捕まった【美容師】


拓海さんはスマホを私に返すと、今度は私の前髪にそっと触れた。
 
「昨日切ったばっかりなのに、もう崩れちゃってる。
 触ってもいい?このまま連れて帰っても、文句言わないでくださいね」
そう言って、私の返事も待たずに、優しい手つきで髪を整え始める。
 
その手つきも、伏せられた睫毛も、全部が私のツボを的確に撃ち抜いてきて、頭がどうにかなりそうだった。
 
「……っ、もういい!! 勝手にしろ!!」
ついに限界を迎えた元彼が、せめてものプライドか、伝票をひったくって席を立ち、嵐のように店を出て行った。
 
カランカラン、と虚しくドアベルが鳴り響く。 
嵐が去った店内で、拓海さんは私の前髪から手を離すと、ふにゃりと笑った。
 
​「あーあ、行っちゃった」
​拓海さんはそう言うと、背もたれに体を預けて、はぁ、と小さく息を吐いた。
完全に、敬語が消えた。
好きな顔から繰り出されるその距離感に、私はただ、真っ赤になることしかできなかった。
 
​「あ、の……! 拓海さん、本当にありがとうございました! 助かりました」
​私は慌てて頭を下げた。お礼を言わなきゃいけないのに、心臓がうるさすぎて声が上ずってしまう。
 
​「ん? ううん、いいよ。別れたかったんでしょ?
 全部顔に出てたから、つい意地悪したくなっちゃった」
​拓海さんは楽しそうに笑いながら、まだ一口しか飲んでいない珈琲に口をつけた。
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