第8章 髪を切ったら、“知らない恋”に捕まった【美容師】
「今日の服、昨日買ったやつですか?
お買い物行くって仰ってましたよね?
めっちゃ似合ってます。昨日切った髪のバランスにもピッタリ」
「え、あ、ありがとうございます……!
拓海さんが切ってくれた髪型に合うようにって、昨日いろいろ選んで」
思わず正直に白状すると、拓海さんは「え、俺のために?」と言って、嬉しそうに笑った。その表情がもう、私の心臓のライフをゴリゴリ削ってくる。
「うわ、めちゃくちゃ嬉しい。
……あ、でもその靴、ちょっと靴擦れしそうじゃないですか? 買ったばかりの革靴って硬いから」
「あ、バレました? 実はちょっと痛くて……」
「やっぱり。じゃあこのあと薬局行って絆創膏買いましょう。僕が貼ってあげます」
「えっ、それは悪いですよ!」
「いいんです。あなたの足を守るのも、彼氏(仮)の仕事でしょ?」
クシャッと笑う拓海さん。
目の前で繰り広げられる怒涛のピンク色の空間に、アイツは顔を真っ赤にしてワナワナと震えている。
「おい……っ! 人の話を聞けっつってんだろ!!」
「あ、すみません、珈琲冷めちゃうんで」
拓海さんはチラリともアイツを見ずに珈琲を一口すすると、また私の方に向き直った。
「それにしても、髪、やっぱり切って正解でしたね。
前の髪型も悪くなかったけど、こっちの方があなたの綺麗な首のラインがよく見えるし、何より、」
拓海さんはそこで言葉を区切ると、楽しそうに目を細めた。
「他の男の趣味の髪型なんて、さっさと上書きしちゃいたかったので」
さらっと流れるように言われた独占欲の滲む言葉に、私の顔はきっと、さっきの目の前で喚き散らした男以上に真っ赤になっていたと思う。