第8章 髪を切ったら、“知らない恋”に捕まった【美容師】
「名前聞いてるんじゃねーよ」
喧嘩腰だったのに対し冷静な彼を見て一瞬ひるんだ様子を見せた。
「私、彼と、拓海さんとお付き合いするから別れるの!」
私は思い切ってそう言ったところで彼が頼んだ珈琲がテーブルに運ばれた。
店員は少し気まずそうに、ごゆっくり、そう言って足早に去って行く。
彼は珈琲にお砂糖とミルクを入れて揺れる珈琲を見つめていた。
唇がすこし尖ってきていた。珈琲を一口飲んで、また唇を尖らせる。
面白いなって見入ってしまっていると対面に座っているアイツが口を開く。
「何? 付き合うからって二股?」
この男、浮気しておいて何を言うのか。
返答に困っていると隣に座る彼が返事をする。
「いえ、多分、昨日始めてお会いしたのでそういうのではないと思います」
「はあ?昨日会って付き合うとか、頭おかしくね?」
いや、頭おかしいのは私と付き合っていたのに、ほかの女と一緒にあんな姿で居た貴方でしょう。
「すみません。俺の一目惚れ、だったもので。
一目惚れっていうか、もうちょっと正確に言うと、見つけた、って感じなんですよね。
順番がおかしなことになってしまったのは本当に申し訳ないのですが…」
そう言って、拓海さんは困ったように眉を下げて笑った。
メチャクチャ好きな顔が、至近距離で、私だけを見て困っている。
その破壊力に私の心臓がうるさく警報を鳴らし始めた。