第8章 髪を切ったら、“知らない恋”に捕まった【美容師】
「だから、もう別れるって言ってるの」
「なんでそうなるんだよ」
この男はカフェの店員さんが奥から私達を眺めているのを知っているのだろうか。
比較的静かなこの空間でこんな話をしているのだ、それも今は店内に私たちしかいない。
気になるに決まっている。
さて、一体何杯の珈琲を飲めばいいのだろうか。
同じ言葉の繰り返しに飽きてきて外を眺める余裕ができた頃、そこは真っ暗になっていた。
もう、ため息しか出ない。
押し問答を続けてばかりだ。何かいい手はないものか、と考えているとドアベルが鳴り客が入ってきたようだった。
もうそろそろ話しに決着をつけないとな。
そう思いながらその客を見上げると、見た顔だった。
忘れる訳がない、ただ単にメチャクチャ好きな顔。
昨日の美容師だ。
私はすぐさま立ち上がり彼の元へ駆け寄った。
「すみません、申し訳ないけど話し合わせてもらえます?
あとでお礼しますから」
彼はきょとんとした顔をして私がいたテーブルを見た。アイツが睨みを利かせている。
「じゃあ、珈琲頂けますか、ホットで」
納得してくれたのだろうか、店員にそう声を掛けて私の後を追い私の隣に腰掛けた。
「お前、誰だよ」
随分と機嫌悪そうにそう聞く、アイツの言葉に彼は丁寧に答える。
「はじめまして。奥山拓海と申します」
あ、そんな名前だったのか。頂いた名刺にそれっぽいことが書いてあった気がするもあまり覚えていない。