第8章 髪を切ったら、“知らない恋”に捕まった【美容師】
私の髪を切るこの男の見た目はフツー。フツーだけど追ってしまう顔。
あれだ。美形とかじゃない。
この美容師、ただ単にメチャクチャ好きな顔だった。
元々美形が好きなわけでもないしかといってどんな顔が好みか聞かれると困るのだが、まさにこの顔が好みだ。
出された雑誌も読まずに、何をするわけでもなく鏡を見る。
横顔より正面からの方がタイプだな。でも横を向いたときの首筋のラインなんかはもっと綺麗。
集中しているときは唇を少し尖らせて、瞬きの頻度が少し減る。
私の視線に気づいたのか鏡越しにこちらを見て首をかしげてにこりと笑う彼。
それに気付かない振りして外を見た。
髪を揃えるときの頭に触れる手が何となく心地いい。
この美容院は初めてきた。
いつものところは予約でいっぱい。それでも私は髪を切りたかった。
失恋とかじゃない。
ただアイツが好きって言ったからこの髪型をキープしてたので、それとさよならしたかった。
どうするか聞かれて、跡形がないくらいに髪型を変えてください、あとは任せます。とだけ伝えた。
美容師は少し悩んでから 任せてくださいと一言。
この顔がなかなか良かったので、よろしくお願いしますとお願いをして今に至る。