第7章 Happy Birthday to YOU.
辿り着いた彼女の部屋は、どこかほっとする温かい生活の匂いがした。
戦場のような外の世界から帰ってきて、ここで彼女は羽を休めているんだと思うと、それだけで胸がいっぱいになる。同時に、誰も知らない彼女のプライベートな空間に僕だけがいるという事実に、心臓がうるさいほど脈打っていた。
棚に眠っていたワインを理由に、僕は少し強引な態度を取った。
シラフのままでいたら、緊張でどうにかなってしまいそうだったから。
ピザを頬張りながら、彼女を観察する。
ワインの渋みに顔をしかめ、お洒落なメッキが剥がれ落ちていくたびに、彼女という人間が僕の中に深く浸透してくる。
見ていて、飽きなかった。
ついに、あの白い箱を開ける時がきた。
真っ白な生クリームに、艶やかなイチゴ。僕たちが誇りを持って仕上げた傑作。
「……フォークでいっか」
彼女が持ってきたのは、2本のフォークだった。
皿も出さずに直で行こうとする彼女を見て、僕は確信犯的に、フォークをケーキのど真ん中に突き立てた。
本当は、作り手として一番やってはいけない食べ方だ。
でも、彼女はきっと、この完璧な形を壊すのを躊躇してしまう。遠慮がちに端を突いて、また一人ぼっちの寂しさを思い出すかもしれない。
そんなのは、絶対に嫌だった。
僕が作ったケーキなんだから、僕がどう壊そうと自由だ。だから、先に壊した。
案の定、慌てふためく彼女。その焦った顔が見れただけで、僕の計画は大成功だ。
泥酔した男女が、一つのホールをフォークで突っつき合う。
ぐちゃぐちゃになったケーキの残骸を見て、彼女は「勿体ない」と小さく吐息した。
パティシエが心を込めたはずなのに、と。
自分の分身のようなケーキを、僕以上に大切に思ってくれる彼女。
「作られたままの綺麗な形じゃなくて、こうやって誰かに『美味しい』って思ってもらえれば、それだけでケーキとしては正解なんです」
そして、数分遅れの「お誕生日、おめでとうございます」を贈った。
日付なんてどうだっていい。隣で言えた。それで十分だった。