第7章 Happy Birthday to YOU.
灰皿の隣、所在なげに佇む彼女。
手には、さっき僕の店で買ったケーキの箱。
そしてその顔は、幸せな主役のそれとは程遠い、今にも泣き出しそうなほど寂しげなものだった。
時間を気にする様子もなく、待ち合わせではなさそうだ。
ただ、ひとり遠くを眺めながら時間を持て余してる、そんな感じがした。
「一人、なのか?」
最低な安堵が、全身を駆け巡る。
気づいたときには、僕は彼女に声をかけていた。
「お姉さん、そこのケーキ好き?」
返ってきたのは、自虐に満ちた言葉。
「好きじゃなきゃ、買わないわよ。帰って一人で食べんのよ、ワンホール」
その瞬間、僕の中で止まっていた時間が、猛烈な勢いで動き出した。
一人で食べる? あんなにお洒落をして、自分への誕生日ケーキをホールで買って、そしてこんな場所で寂しそうにしている。
放っておけるわけがない。
「そんなに好きなんですね」
彼女はムキになって「一生飽きない」と言い張った。
「一生は言い過ぎでしょ。僕なら、そんなに食べられないな」
つい、あまのじゃくな言葉が漏れた。
一生 という響きが、あまりにも重くて甘かったから。
彼女は真っ赤になって怒った。その表情を見て、激しく後悔した。
彼女にとって僕はただの通りすがりの男だ。だからこそ、こんな本音を漏らしたんだろう。
でも、僕にとっては、彼女はずっと「特別」だったのに。
「このケーキ、食べてみれば分かる。これからうちに来て食べればいい!」
まさかの展開に思考が停止したまま、僕は彼女に腕を引かれ、夜の街を歩いた。
「箱、僕が持ちますよ」
「ダメ。これは絶対に、私が無傷で持って帰るの!」
自分が丹精込めて作ったケーキを、宝物を扱うように守ろうとする横顔。
その頑なな愛おしさに、胸の奥が熱く焼けるようだった。