第6章 Happy Birthday to me...【ラフ甘男子】
……何か、いい匂いがする。
バニラと、小麦粉が焼ける、甘くて香ばしい匂い。
あの、大好きなお店の前を通る時と同じ、幸せな香り。
重い瞼を開けると、視界に飛び込んできたのは、昨晩の残骸が散らばるローテーブル……ではなく、私の手に握られたグレーの布地だった。
高城が着ていたパーカー。
私が寝ぼけて彼の袖を掴んだまま、離さなかったのだろう。
彼は私を起こさないように、器用にパーカーだけを脱ぎ捨てて、ここから抜け出したのだ。
「うわ、最悪」
顔が火照るのを感じながら、私はパーカーをソファに放り投げた。
いくら酔っ払っていたとはいえ、初対面の男の服を剥ぎ取るような真似をするなんて。
「あ、起きた」
キッチンの方から、声がした。
振り返ると、白シャツの高城が、フライパンを手に立っている。
「……高城?」
「おはようございます。パーカー、そんなに気に入りました?」
「……っ」
やっぱり、気づかれていた。私は気まずさに顔を背けながら、彼のパーカーを拾い上げ、ソファの端に丁寧に置いた。
「何、作ってるの?」
「何って、匂いでわかるでしょ」
高城はにこりと笑うと、皿に何かを盛り付け、それをリビングのテーブルへと運んできた。
「……嘘」
そこに並べられたのは、昨晩私が熱弁した、あのお店限定のパンケーキだった。
ふわふわで、こんがりとした焼き目がついていて、その上にはフルーツと、ホイップされたバタークリーム。そして、メープルシロップのボトルまで用意されている。
「なんで、これ。材料だって、うちには何もなかったはずじゃ」
私の疑問に、高城は、いたずらっぽく笑った。
「実は早朝、一回お店に行って取ってきました。店の鍵、持ってるんで」
「えっ、お店に!?」
「お姉さんが『一生飽きない』って言ったからには、そのへんのスーパーの材料で誤魔化したくなかったんですよ。
それに、僕の作ったケーキにあれだけ熱いファンレターもらったんですから。オーナーとして完璧なもの出さないとプロ失格でしょ」
「オーナー……?」
驚く私に、彼は事も無げに言った。
「あ、言ってませんでしたっけ?」